文化庁メディア芸術祭、漫画部門大賞を受賞した作品。信頼しているいくつかの漫画サイトでも取り上げられていて興味を持っていたんですが、たまたま大学生協で見つけたため、購入。
戦争の話です。広島、いや「ヒロシマ」の話です。つまりは原爆の話ですが、時代は投下された昭和20年8月のことではなく、「夕凪の街」は10年後、「桜の国」に至っては60年が経った現代が舞台です。原爆投下直後の凄惨な被害の描写は主には語られず、それを経験した人の肉体的・精神的な後遺症、そして、それを経験していない人の「原爆」「ヒロシマ」そして「その経験者」に対して抱く「居心地の悪さ」のような感情に、テーマが置かれています。
『わたしは広島に生まれ育ちはしたけれど、被爆者でも被爆二世でもありません。被爆体験を語ってくれる親戚もありません。原爆はわたしにとって、遠い過去の悲劇で、同時に「よその家の事情」でもありました』(「あとがき」より)
今、日本に生きる大多数の人は、広島出身の作者よりもずっと、戦争や原爆は「よその家の事情」という感じを受けていると思います。はっきり言ってしまえば、実感しろというほうが無理なことです。でも「唯一の被爆国として、語り継いでいかなければならない」と、誰もが正論を言うわけでして。
そういう、戦争や原爆に対する「居心地の悪さ」をこの作品は描いていて、その「居心地の悪さ」を、穏やかに解きほぐしてくれたと思うんです。それは、原爆被害の惨たらしさをこれでもかと示すよりも、ずっと、「戦争を知らない子どもたち」と「その子どもたち」の生きる現代に沿った形の描き方だと感じました。
原爆の話だからといって、教訓めいたものはありません。だから、この作品を読んで「やっぱり戦争や原爆はいけないと思いました」と思え!ってんじゃあ、全然ないんですね。それも「居心地の悪さ」を感じさせない一因で、上でカタい文章書きましたけど、「戦争モノだ」と身構えないで読んでいくことができる話です。けっこうコミカルな描写が目立ち、するすると読み進めていくことができますし。
唯一「夕凪の街」のラストのモノローグはかなりきっついですが、「桜の国」は全体にほとんど暗さはなく、「夕凪の街」の後味の悪さをうまく補完していて。だから、「夕凪の街」の続編は「桜の国」という形で絶対に描かれなくてはいけなかったと思いますし、作者もおそらくそう考えたんだろうなと勝手に思ってます。
娯楽として読める漫画ではさすがにないですが、興味を持った人ならば、その期待を裏切ることはない漫画だと断言できます。書店で見かけたら、手にとってみてくださいな。
こうの史代
コメント(2)| Track back(0) | 2005年01月18日
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