<前へ向かう方向性と広がりを手にし、「循環」ではなく「展開」していく曲世界>
ご存知、大ヒットした「さくら」から1年以上間を空けてのリリース。この長いブランクは、熱を冷ますための意図的なものなのでしょうか。次の一手はどんな曲で来るのかな、と思ったら、「さくら」のイメージから離れすぎない、ミディアムテンポの王道路線でした。
哀愁系ヒップホップはすっかり一ジャンルとして定着しています。その中でも、「さくら」は短く細かくループする音の組み合わせから聴き手を世界に沈めこんでいくタイプであるのに対し、こちらは大きな広がりを作ろうとしているサウンドになっています。始まりから終わりまで裏でメロディアスに響き続けているストリングス。要所要所で耳に残るサビ的なメロディに回帰するも、ラップ部分は同じメロにならずさまざまに形を変えていくこと。また「さくら」ではマイナーに収まっていく4つの和音で構成されるコード進行が主体だったのに対し、こちらでは8つと倍の和音で構成され、そして毎回収束せず次の始まりにつながるような進行になっています。
いわゆる「パッヘルベルのカノン」の王道コード進行を深めの響きにしたものが骨組みになっていますね。8つの構成で、しかもシンプルでありつつドラマティックなところがこの種類の進行の絶大な強みなのです。
よって、「さくら」とこの「旅人」は、一聴すると似たような雰囲気にも感じますが、音楽的には実はかなり異なる工程で作られていることがわかります。
ミニマルで断片的でぐるぐると循環し続けるところに、中毒性と過去の哀愁を込めた「さくら」。一方、大きな枠をもってその中でも先へ先へ、劇的に展開していく「旅人」。季節の循環/過去への哀愁と、旅と未来への志向/自由と広がりという、それぞれの曲の詞世界の方向性自体を、音楽そのものが表しているかのようにも感じられます。
詞は真上で述べたように、旅に出る、『進む未来へ』というメッセージに集約される内容。そこに広がりや感動をもたらさせているのは、「〜して 〜して」という反復によるところが大きいのではと考えます。繰り返すことで強さも広がりも膨らむし、韻も踏みやすく音が揃う効果で印象深くもなる、という。
『ありのままの旅へ』と「自分らしさ」を肯定するのは非常に正統派なやり方だなあと思いました。ただ、『悩むだけ悩んで night&day/悩んで 悩んで 悩んで行く』と「悩んで」を繰り返すところはなかなか感心しました。たとえば「信じて」とか「夢見て」とかってプラスの言葉を繰り返しても、そんなに面白くない。そこを「悩んで」だから、えっと聴き手は引き付けられるわけで。
また、ただ人生に悩みは付き物だって言っているだけじゃなく、悩みそのものを肯定している書き方なんですね。「悩んでも(○○だから大丈夫)」じゃあない。悩みながら進むことに何か改善策を提示するんじゃなく、悩んで生きていくのが当たり前、それは決して悪いことじゃない。そんなことを伝えられているんじゃないかなあ、と。
なんにせよ、したたかな曲作りをしているユニットです。ちゃんといろいろ計算して構築しているような印象がビンビンと。
ケツメイシ
コメント(0)| Track back(0) | 2006年07月08日
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