シンガーソングライターとしてコアな人気を持っていた中村一義が、一人での活動から徐々にバンドへと傾斜していくようになり、ついには「100s」(ひゃくしき)とバンド名を冠したアルバムを作り・・・そういった流れを経て、昨年から正式に100s名義での活動が始まり、そして出来上がったのがこのアルバムということになるわけです。
全21曲。短いインターミッションやインストも数曲あるとはいえ、相当なボリューム。ファーストアルバムでありながら、前述のように長いキャリアがあるからなのか、それともこの100sというバンドの才能ゆえなのか、恐ろしく完成度の高いアルバムになっています。人それぞれ好みはあるので、このアルバムを気に入らないという人ももちろんいるのだろうとは思いますが、それでも「完成度が高い」という点については、聴いた人の大多数が賛同するのではないかなと。それくらい、練られた構成、息の合った演奏とアレンジメント、とにかく統一感のある一枚です。
内容量のわりに、またどの音も粒が立って響いてくるのに、聴いていて全然疲れないのが、個人的にポイント高いです。視界ははっきりしているのに、柔らかい空間が作られていて。これは、なかなか他では感じない特徴ですね。キーボード、掠れのないファルセット&コーラスなんかが主な要因なんでしょうが、アレンジの見事さも大きく関係しているんでしょう。バンドのパートそれぞれが、闇雲に自分のアピールをするのではなく、役割を考え、ひとつひとつの曲想を全員で共有しながら精密に組み立て、絡み合わせているといった雰囲気に満ちています。
書いていたら思いもかけず「曲想」という単語が出てきましたが、このアルバムには「曲想」がある、と言うと伝えやすそうですね。どの曲も、おそらくは構築の段階で「どんな曲にするか」ということをきちんと練り上げて、メンバー全員に同じイメージが固まってから作っていく、それくらい明確なビジョンを持って各曲が出来上がっているように感じられます。
詞は、作詞者の中村一義独特の味がいかんなく発揮されています。この人、歌詞カードを見ればすぐわかるのですが、昔から句読点を多用するんですね。これはどういう効果があるのかというと、大きいのは、言葉が区切られることで「断片的になる」ということなのかな、と。
『要は、飛び立つ瞬間が今日さ。自分を行け、行け。』(「A」より)
『ただ朝に、ただ夜に、ただ深く礼、したいだけ。』(「バーストレイン」より)
『君が望むのならしな、しな。/心、生きるのなら。』(「Honeycom.ware」より)
『まだまだ叫ぶんだ。/世界中に想いよ、もっと降れ。』(「光は光」より)
呼びかけ、瞬間的に高まる想い、つぶやき、願い。そうした、シンプルだからこそ「文章になりきらない」感情が、短い一語ずつに込められている、そんな印象を受けます。それが形だけでなく、完成度の高い歌として提示されているから、コアなファンが多いのもうなずけます。
しかし、歌詞カード見ないとわかんないです、なんて歌っているか。ただでさえ前述のように断片的で類推しにくいのに、さらに以下の要素が加わります。
・詩的、あるいは奔放、あるいはめちゃくちゃな表現を多用している
『知るもの無き底面。/悪戯書きは平面。』(「Sonata」より)
『ですからビーツなら、不動にスライ、スタックス&ハイ。』(「K-ing」より)
・砕けた言葉遣いだったりする
『みんな今、未来に手ぇ伸ばすぜ。』(「やさしいライオン」より)
・一音に言葉を詰め込んでいて、英語っぽい
『愛、無心、銀河、宇宙。』(「B.O.K」より)
→「I'm singing about you」とか何とかそんな感じの英語っぽい。
純粋な「音」としての快さも追求しようとしているんでしょう。それでいながら、断片的にシンプルな感情を散りばめたり、「(For)Anthem」「扉の向こうに」などではかなり社会批判的なメッセージを込めたり、きちんと言葉の生み出す意味も重視していこうとしています。
というわけで、曲も詞もかなり複雑に構築され、だけどすっと聴きやすい、なかなか稀有な出来の作品に仕上がっていると思います。名曲だと感じた「Honeycom.ware」が、アルバムに置かれると(真ん中の重要なポジションにあるとはいえ)目だっては聴こえないくらい、どの曲も捨てがたいですよ。オススメ。
100s
中村一義
コメント(2)| Track back(0) | 2005年02月21日
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