新星のピアノ弾き語り女性シンガー、矢野絢子のファーストアルバム。
アルバムって、普通は統一感を重視して全体の雰囲気をまとめるのが定石だと思うのですが、この一枚はそうではなく、ひたすら曲を並べていっているような感触を受けます。
曲ごとの個性が強いということがひとつあって、これは基本スタンスが「ピアノ+インパクトある声」と、どうしても曲調の幅が狭くなりがちなのを、最大限広げようとしているようです。あえてひたすらに歌い上げる同じトーンの楽曲でアルバムトーンを塗りこめていた鬼束ちひろとは正反対の方向性で、ピアノ基調のシンガーにしては、かなりバラエティに富んでいる内容になってます。
もうひとつ、おそらくは意図的に、楽曲を直線的に並べている印象があります。インパクト大だった「てろてろ」「夕闇」の二枚のシングル、そして有線でしょっちゅう流されていたジャズ調の「ゼンマイ仕掛け」を頭に持ってくる。真ん中に突然約12分の物語「ニーナ」があり、ここまでが前半。ちょうどここまででミニアルバムが一枚できそうな、密度の高く主張の強い6曲が並んでいます。
後半は、アップテンポで軽めの曲が4曲並び、そしてしっとりとした曲が2曲並び、そして最後、インストというにはあまりにも「うた」として聴こえてくる表題曲「ナイルの一滴」で締めくくられています。
どれもこれも個性が強く、曲順の構成からしても、かなりのボリュームがあります。通して聴くのはけっこう重労働ですが、デビューアルバムらしく、自分の今現在持っているすべてを注ぎ込んだと主張しているようで、まさに力作と言える一枚に仕上がっています。
力作なのは間違いないところですが、ただ、いくぶん空回りしている部分もあるように感じます。
言いたいこと、歌いたいことは山のようにある、それはびんびんと伝わってきます。「ニーナ」で語られる長い長い物語、「レモンスライスほおばって」のなかなかブレイクポイントまで到達しない長広舌なメロディーとかからも、とにかくしゃべりたくてたまらないのは明らかです。なのですが、今ひとつ、何を訴えかけたいのかが見えてこないところがあって。
たとえば「ゼンマイ仕掛け」や「闇の現」の、切迫した伴奏と迫ってくるような叫びには気持ちがざわつかされるのに、「嘘つきの最期」の『本当のことは美しいとでも思っているならお笑い種だね』、「かなしみと呼ばれる人生の優しさよ」のタイトルや『みんな傷つけあって/楽しいんだ』など、随所に印象深い、皮肉交じりの、はっとさせられるフレーズがあるのに、結局それらはあくまでも提示された、並べられただけで、読み取るべきメッセージの存在がとても希薄に思えるんですよね。切り取り方は鮮やかなんですが、その断片を未消化のまま投げっぱなしにしているみたいで。
「君が好きだ」というシンプルなメッセージの「てろてろ」。そして唯一作詞作曲両方が提供である「坊や」。この二者が、描かれる情景から滲んでくるものの輪郭がもっとも豊かではっきりしているように感じる辺りからして、やはりまだ自分を表現しきるのには未成熟な面があるのだろうな、と推測します。
ただし。
「てろてろ」が有線で流れる謎の歌だったころ自分が混乱したように、少年の声かと聴き違うほどにイノセントな声質が彼女の魅力なわけで、だから「投げっぱなし」な点は、ひたすら純粋な視点から世界を「見る」ことに徹している、実に彼女らしいスタンスだ、とも言えるわけです。
個人的にはもう少しメッセージの集約力を上げてほしいなと感じるのですが、それは今後に十分期待できますし、今回はデビューアルバムであることからしても、「未完成さ」はむしろ魅力のひとつになっていると捉えてよいと思います。
好みを挙げると、少年の視点や物語風の曲が多数を占める中で少女の想いがひしと伝わってくる「わかれ」、陽気で、どこかいとおしくて、それでいて芯の強い賛歌「ソリダスター」、等身大なのに驚くほどの深さのある「かなしみと呼ばれる人生の優しさよ」あたりがお気に入りです。
矢野絢子
いろいろ書いたわりに、Oriori no Uta様の記事(こちら)とほとんど同感、と言うと、ほんとそれで終わってしまう内容なのですが・・・
コメント(0)| Track back(0) | 2004年12月23日
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