<あとで思い返すためじゃなく、別れ際の今このときのために願う切なる気持ち>
これまでにも「ナキムシのうた」「クラクション・ラヴ」などのちょっとした話題作でじわじわと知名度を拡大していた風味堂の、ストレートなタイトルのナンバー。
ギターなし、ボーカルがピアノも弾くという一風変わった3ピースバンドで、この楽曲もバンドサウンドではあるもの、ピアノが大幅にフィーチャーされていてかなりポップかつゴテゴテしすぎないシンプルな音になっています。
「愛してる」というタイトルですが、実は別れの曲です。『君がサヨナラ言った二人最後の夜/初めて君からその身を寄せてきたんだ』と描かれているので、「君」も「僕」も双方がお互い本当は別れたくないと思っているんでしょう。とすると、「君」が遠くへ行ってしまうとかそういうシチュエーションなのでしょうか。「君」からサヨナラ言ったということは、たぶん「君」側がどこかに行くとかそういうことなんでしょうね。「僕」は置いていかれる側です。
でも『恋の終わりはいつも人を素直にする』を読むと、つまり素直になれなくて衝突しあった、という過去を類推することもできます。でも最後になって…みたいな。
『あと少しだけ/君を抱きしめさせてくれないか』『君のぬくもりを/ウソでいいから僕にくれないか』と呼びかける「僕」の懇願。「〜させてくれないか」「ウソでいいから」という辺り、どうも下手に出ているなーという印象ですが、まあそれだけ「君」を大事に思っている、切々とした心情でいる、のでしょう。
だって「君」は「身を寄せて」きているわけですから、わざわざ許可を取る必要はないはずなのです。そこをあえて問うからには、投げかける対象は「君」というより、それを超えて「神様」とか「時間」とか、そういうものなんじゃないのかなあと、ここは。あえて尋ねてしまう、あえて「ウソでも」と言ってしまうくらい、切実な思いなんだという。
なぜそこまで女々しくも切実に「最後のぬくもり」を欲しがるのか。それは、今、まだ「君」が隣にいるこの瞬間こそが大事だからですね。いつかは『今よりもっと綺麗な思い出になる』ことはよくわかっていながらも、だからといって別れのシーンを綺麗に身を引こうとは思えないわけです。『そんな思い出なんかに/変わってしまう前に』この瞬間の「君」をしっかりと感じていたい、そんな思いがあるんでしょうと。
つまり、ここでの「君」を抱きしめたいという感情は、思い出作りのためじゃあないのです。本当に≪今≫このときのための昂ぶりであり、切なる願いなんだというわけですね。
そう考えると、サビの『愛してる 愛してる/もう 言えなくて』もまた、今このときにすべて言っておいてしまいたい、「君」に届くうちにすべて曝け出したい、という「僕」の気持ちが見えてくるように感じます。
風味堂
コメント(0)| Track back(0) | 2006年11月25日
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