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現代ポップス考。(移転しました)

サンボマスター「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」
      

世界はそれを愛と呼ぶんだぜ
ソニーミュージックエンタテインメント
サンボマスター, 山口隆

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<暑苦しさ、身近さを演出し煽動する「ハートの代弁者」>

 サンボマスター、勢いに乗っています。もっとアウトローな位置に定着して、知る人ぞ知るコアなファンの集うタイプのミュージシャンになるかと思っていたんですけれど、この夏話題のドラマ版「電車男」の主題歌に大抜擢。この話を聞いたときは「ええ?」と驚いてから「ああー…ちょうどいいのかもなあ」となんだか納得してしまうような気分でした。

 電車男関連は、リアルタイムで見ていた…わけではないですが、メディア的な広がりを見せる前に存在は知ってました。まあご存知のように「オタク男がネット上でアドバイスを受けつつ一般人の女性との恋愛を成就させる」と大雑把にまとめられる話なわけです。これは今まで何かと悪いイメージがつきまとっていたネットの匿名性の印象をかなりよくすることに貢献することはもちろん、世のオタク達に希望を与えることにもつながっていると思います。まあ、よくある話じゃあないと思いますけれど、人間頑張れば叶うんだよ、っていう希望にはつながるわけで。

 で、典型的なオタクとして描かれている(実際にそうなのかどうかはともかく、そう扱おうとしている作品のスタンスが重要)電車男。そのテーマソングに、まあ、お世辞にも美形とは言えないサンボマスター。ルックスどうこうは基本的に音楽性に関係ない、鳴っている音楽が大事なんだ、と自分はそう考えてますけれど、サンボマスターはそのルックスゆえに「ルックスどうこうは基本的に音楽性に関係ない、鳴っている音楽が大事なんだ」という評価を得られるバンドである、ということは指摘しておかなければなりません。
 ええと、で、このサンボマスターのスタイルというのは、「電車男」への共感と重なってくる部分があると思うのですよ。つまり、「一般にはちょっとモテなさそうなタイプの男が、ひた向きに頑張っている」という点ですね。その「まっすぐさ、純粋さ」が、共感を呼ぶのです。サンボマスターが演出するような、電車男が…ドラマも映画も見てませんけど、だいたい察しはつきます、電車男が見せるような。「要はハートだ、見てくれじゃない」っていうメッセージは、見てくれが優れた人が言ってもあんまり説得力はないわけですね。電車男だったりサンボマスターだったりするからこそ、納得させられる主張なのですね。

 えー、なんだか非常に失礼なことを言っているように思われるかもしれませんが、この辺はおそらくサンボ本人達も理解して、むしろ利用してやろうとしているはずです。
 彼らは、過剰なまでの暑苦しさをある程度意識して演じています、ほぼ間違いなく。だって、そうでなきゃ、録音した曲にセリフでの語りとか「ラブ・アンド・ピース」って叫びなんて入れませんって。
 演じていないのであれば、ミュージシャンである以上は叫びではなくきちんと曲にその思いを組み込もうとするんじゃないかなと。そうはせず、ライブならともかくシングルで語ったり叫んだりするというのは、「暑苦しさ」のイメージをさらに強化するためのアピールなんじゃないかと思うわけです。『愛と平和!』と繰り返し叫ぶのも、「今どきそんなこと歌う奴なんかいないのに」と言われることを想定した上で歌っているんでしょうし…

 まあ、ただ暑苦しいだけだとギャグになってしまうんですが(実際、パロディも出ましたしね)楽曲がよいので、とても効果的だといえるんじゃないかなと。
 『昨日のあなたが 偽だと言うなら/昨日の景色を捨てちまうだけだ/新しい日々をつなぐのは 新しい君と僕なのさ』と、過去は関係なく今これからを二人で行きていこう、というメッセージは、シンプルゆえに力強いです。過去を振り返って感傷に浸る歌が多い昨今、このシンプルな呼びかけは、『悲しみで花が咲くものか!』という叫びも合わせて強烈なカウンターパンチになっていますね。

 「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」というタイトル。毎回サンボは煽情的なタイトルをつけるのがうまいですが、注目したいのは「それ」です。「それ」が何か?ということではなくて、「それ」という指示語が持っているような「距離感の近さ」ですね。
 上記で“過去を振り返って感傷に浸る歌が多い昨今、〜”と書きました。このタイプ、いわゆる「思い出系」は、「あの日」「あの思い出」「あんなに好きだったのに」などと、「あれ」系の指示語を多用する性質があります。またそれ以外の曲でも、「あの空へ」「あの道の向こう」などと使われますね。国語の教科書にも載っているように、「あれ」という指示語は、遠くのものを指すときに使います。曲のイメージに奥行きを盛り込むには、格好の言葉なわけですね。
 それに対し、サンボマスターは「それ」です。「それ」は「あれ」よりも近い位置のものを指します。さらに言えば、相手の傍にあるものを指す言葉です。したがって、歌い手が「それ」と言うとき、聴き手は自分のすぐ傍にあるものを指示された感覚を受けているはずなのです。

 「世界じゃそれを愛と呼ぶんだぜ」の「それ」は『僕らなぜか確かめ合う』というフレーズを指してるんじゃん、という指摘が聞こえてきそうなのですが、でもこの流れだと「これ」でも意味が通じてくるはずですね。
 <世界じゃこれを愛と呼ぶんだぜ>
 「これ」だと、歌い手が持っているものを聴き手に提示した、というような印象になってくるかと思います。対して、「それ」と言われると、歌い手がぐぐっと自分の手元に引き込んでくるようなベクトルが発生してくるような感触がしてきませんか?
 この辺りはまさにサンボの、周りを巻き込もうとするスタイルがにじみ出ているような箇所だと思います。「それ」だけではなく、たとえば「過去」と言わずに『昨日』と「今」に隣接する単語を用いているのとかも、同じようなことだと感じますね。言葉の語尾が「〜なんだ」「〜だぜ」「〜のさ」と砕けた語調なのも合わせて、非常に聴き手に「近さ」を意識させる作りになっているなあと。それこそ前のアルバムのタイトル「サンボマスターは君に語りかける」というのは、自らの作る曲にマッチしているなあ、と感じました。

サンボマスター

コメント(0)| Track back(0) | 2005年10月02日

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