<「聴き手」を意識することなく「素」を出したゆえの、取りとめのない広がり>
復帰後の宇多田ヒカルはどうもセールスに関しては苦戦しているようです。その理由は、単純に言えば「わかりにくくなった」というイメージを抱かれてしまったから…なんじゃないかなと。前回の「Be My Last」、そして今回と、かなり捕らえどころがなくなってしまっている感はします。
ダークな部分は「誰かの願いがかなうころ」あたりからありましたが、それよりも遥かに内省的な詞になっているように感じます。『思い出せば 遥か遥か/未来はどこまでも続いていた』とか、感傷的な振り返りをするのも今まであんまりなかったことです。「今」どう考えているのか、をずっと表現してきた人だと思うので。
この曲のどこまでも果てしなく茫漠と広がっていくような幻想的な雰囲気は、新境地であると同時に、以前のシングルのような明確な訴求力を持ってはいません。浸りきれる雰囲気ありますが、日本でビッグヒットになるようなタイプでは(そういうのも好まれる傾向は強まっているものの)ないのかなと。メロディラインにしても同じで、今までは何だかんだいって一本しっかりした骨のあるものだったのが、今回は緩く滑らかなリズムになっていますし。
詞も、過去を振り返ったかと思えば近況めいた話になったり、『昔からの決まり事を/たまに疑いたくなるよ』というフレーズがさしはさまれたり、まとまりがないというか…ただ、これは表現方法として「あえて」断片的に綴ってみたんだと思います。タイトルを「Passion」と据えたのは、心に浮かんでは消えていく明滅する思考や感情をそのまま取り出したかったからなんじゃないかなと。つまり、「素」の自分というようなものを取り出してみせたかったのかな、と考えるわけです。
以前までの宇多田ヒカルは、曲を通して少なからず「聴き手」に対しての働きかけがありました。楽しげな詞世界を構築した「Travelling」「Colors」や、いわゆるポップスの文法に沿ってできている「Can You Keep A Secret?」「Wait&See〜リスク〜」、情感をたっぷり詰めた「First Love」「FINAL DISTANCE」などなど、伝えよう、見せようという、明確な意志がありました。でもここ2曲はそうではなく、ただひたすら自分の表現をそのまま出している、といった感触です。
ただ、「Be My Last」のときはやけに暗くてちょっと心配しましたが、今回の力の抜け具合を見てけっこう安心しました。音楽性の幅が広がった!と手放しで喜べるかというとやや違いますが、でもとりあえず本人のスランプとかではなく、ダークサイドに堕ちたとかでもなく、ちょっと肩の力を抜いてみているのかな、という感じがするんですね。
セールス的なことは本人はそれほど気にしなさそうですし、個人的には(そしておそらく世間的にも)以前のようなボリューム感ある音楽を期待したいところですが、とりあえずはマイペースで頑張ってもらえればいいかなと。
宇多田ヒカル
コメント(2)| Track back(0) | 2006年02月05日
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